現役コンサルタントが教えるビジネスモデルキャンバスの書き方


 

 

ビジネスモデルキャンバス(BMC)は、ここ数年で幅広くビジネスモデル(収益構造)を表現するために広く活用されるようになりました。皆さんもどこかで見たことがあるかと思います。一方で、書くのは簡単だが、どこに気を付けて書いたらいいかよく分からないという声も耳にします。確かに絵的に表現できるのは良いのですが、これを基にどう考えていったら良いかということは示されていません。本稿では、ビジネスモデルキャンバスを書く際に、検討すべき内容を現役コンサルタントの視点で書いてみます。ビジネスモデルの書き方、作り方として皆さんの参考になれば幸いです。

 

 

ビジネスモデルを考える際に必要な項目

 

 

ビジネスモデル(収益構造)を考える際には何を考える必要があるでしょうか。そもそも、事業とはお客さんから感謝の気持ちをお金でもらうこととも考えられますので、先ずは売上を考える必要があるでしょう。売上を構成する要素が受注と納品・サービスです。お客さんと納品なりサービスなりの合意を得ることが受注です。合意を得た上で商品を納めたり、サービスを実施したりすると売上になります。受注といえば、そもそもお客さんにほしいと思ってもらう必要がありますので、顧客価値について考えてみる必要があるでしょう。受注形態は営業でしょうか、販売でしょうか。お客さんはどのような機会に商品・サービスを知り、買いたいと思うのでしょうか。まだまだ、納品やサービスについても考える必要があるでしょう。

簡単に考えてみただけでも、様々な項目があり、検討は簡単ではなさそうです。(因みにコンサルタントとしてどんなことを考えるかは、スライドの中に記載しました。参考まで。)また、どういった書き方であれば見やすいか、どんな作り方であれば検討がしやすいかも考えなければなりません。がそこで、戦略フレームワークというものが発明されています。

 

 

ビジネスモデルキャンバス(BMC)の利点

戦略フレームワークは色々とありますが、最近、特によく見るようになり、考えをまとめる上で分かりやすいという評判なのがビジネスモデルキャンバス(BMC)です。ビジネスモデルキャンバスは、アレックス・オスターワルダー氏とイヴ・ピニュール氏が考案しました。ビジネスモデルキャンバスには以下の利点があります。

ビジネスモデルを一枚の絵として記述することで、アイデアを"見える化"し、整理し、他の人と共有しやすくする。

ビジネスモデルキャンバス(BMC)は絵的に表現するため、特に他の人と発想を共有する際に有効です。勿論、他の人に分かりやすいということは、自分にも分かりやすいということです。自分でビジネスモデルを作ったり、検討する用途にも使えます。発想を他の人と共有するというのは事業を大きくするために、各利害関係者に自分の考えを伝える時に特に大事になります。融資を依頼している金融機関と、出資を考えてくれている出資者と、業務を行っていく社員と、或いはシステム開発を発注する協力会社と。。。経営者の考えを伝えることは、このような利害関係者との意思疎通の中で必要になってきます。

実務的にはバランスが良い、まだ実現していない新事業の分析に適している。

自社側と顧客側の両方を一緒に記述することができ、バランスが良いと言えます。競合や外部環境が省かれているため、自社が事業として何をやるかに注力して書くことができます。これは新しい事業の記述に適しているということです。

その他の戦略論との比較

戦略論は主に外形評価を分析する分析的アプローチと内部資源に着目したプロセス的アプローチの2つがあります。分析的アプローチでは、SWOT分析、成長ベクトル論、PPM、ビジネススクリーン、競争地位別戦略論、5Fs、Value Chain Model、戦略グループ/競争的地位等があり、競合の動向に着目します。経営トップが戦略の概要を決断し、トップダウンで現場に伝えていく手法と考えられます。また、大企業の場合、大きな市場を狙って必ず競合が現れますので、そのことを考えることは極めて重要です。

一方、プロセス的アプローチでは、コア・コンピタンス論、ナレッジ・マネジメント論、情報的経営資源論、7Sモデル等があり、企業の内部資源に注目しています。例えば、7-11 と Lawson はどう違うかということを考えた場合、結局のところ、企業文化が違うのではないかという視点があります。だとすると競争環境や競合の分析を行うより、企業内部の資源に着目必要があるという考え方です。ビジネスモデルキャンバス(BMC)もどちらかというとこちらに目を向けています。

収益構造(ビジネスモデル)の視点

蘊蓄はこの程度にして、実際に書いてみましょう。案ずるより産むが易し、書き方、作り方をあれこれ考えるより、まずは書いてみましょう。書いてみた後で私であれば以下のような点を検討します。

顧客価値(Value Propositions)

ある事業が顧客に対してどのような価値を提供するかは、その事業の中核です。利便性、快楽性、価格、コスト削減、等があります。言い換えると顧客がお金を払ってくれる理由を考えます。顧客の最終目的を見据えて、他にできることがないかを検討します。

  • 例: オンラインスーパーは各社とも苦戦していると伝えられるが、これは物流費の価格転嫁が難しいと考えられる。何故、顧客は物流費にお金を払ってくれないのか?

  • 例: レオ・マックギブナ 「昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したからである」(「マーケティング発想法」 T・レビット, 1968)

顧客層(Customer Segment)

売上は顧客が払うもの。ここでの具体性がこの後の「Channel(販路)」に繋がってきます。ニーズ、地域、性別、年齢、嗜好など、まず典型的な顧客像を考えてみましょう。ここは元々「Customer Segment(顧客層)」という欄ですが、抽象的な顧客層を考えるより、具体的な人物像を思い描いたほうが考えやすいかもしれません。

  • 例:ペルソナマーケティング 実際に自社の商品やサービスを使ってくれるであろうモデルユーザー(ペルソナ)を作り出し、そのユーザーのニーズを満たすような形で商品やサービスを設計するというマーケティング手法

契約形態・料金体系(Customer Relationships)

この欄は元々「Customer Relationship」となっていますが、分かりにくいという声もありますので、思い切って「契約形態、料金体系」という軸で考えてみます。継続的な関係なのか、一度ずつの関係か、或いはその両方か、無料ユーザ、有料ユーザ、特待ユーザを設けるか、顧客が納得する料金体系を検討します。また、潜在顧客から有料顧客、得意顧客になってもらえるように関係をどう深めていくか、その具体的な段取りを考えます。単発の契約より継続契約の可能性を検討します。

  • 例: Amazonプライム、Yahooプレミアム

販路(Channels)

優れた商品でも顧客が知らなければ購入には至りません。店舗立地、広告、営業代行、セミナー、展示会など、顧客層に合わせ実現可能な販路を開拓します。「Channel」とい単語でピンとこない人は、顧客にどうやって商品を知らせるのかを考えてみると分かりやすいかと思います。特に顧客層が集まりそうな場所を考え、そこでどういうPRができるか考えてみます。

例:
  • 広告 ・・・ 万人向け、分かりやすい商品向け、お金が掛かる

  • 営業代行 ・・・ B2B向け

  • セミナー ・・・ わかりにくい商品向け

  • 展示会 ・・・ 特定の技術指向がある人の集まり。反応も聞くことができる

  • 名刺交換イベント ・・・

業務(Key Activities)

ビジネスモデルを実現する為に自社は何をするのかを記述します。現状の自社人材では難しいかしい場合には、採用を行うか、外注するか、M&Aをするか、ビジネスモデルを再検討するかを考える必要があります。

経営資源(Key Resources)

一般的に経営資源とはヒト、モノ、カネ、情報と言われます。ここではこれに加えて、自社の強みを検討します。強みを活かして他社の参入障壁を作ります。参入障壁がないと競合の参入を容易に許してしまいます。

例:
  • ハーレーの強みは近い分野の車種のみを発売していることである。これにより、オーナー同士が一緒にツーリングに行くなど集まりやすい雰囲気をつくることができる。HOG(Harley Owner Group)は同社の最大の資産である。

  • Microsoftは、事業の中核をソフトウェア販売からサービス提供に変えることに成功した。これには企業向けソフトウェア販売で培ってきた顧客層やノウハウが大きく貢献している。個人向けソフトウェア販売 → 企業向けソフトウェア販売 → 企業向けサービス提供

仕入れ先・協力会社(Key Partners)

経済学的にみると、何かを仕入れ、付加価値を付けて販売することが事業と言えます。この部分は、仕入先、外注業者、委託先などのことを書きます。製品、商品を事業対象とする場合には川上・川下戦略があります。原材料から販売までを考え、自分の両隣の事業に進出する余地がないか考えます。いわば「中抜き」です。また、これとは全く逆の発想で、仕入れ先、協力会社と組んで何かできないかを検討します。所謂、「協業」という考え方です。

例:
  • 物流業では、工場出荷 → 検査 → パッケージング → 在庫 → 出荷という流れがあり、この中で海外輸入の手続きも絡む。順番が入れ替わることもある。業界内では出荷業から在庫業への進出など、隣接する物流プロセスへの進出が活発である。

  • ファッションセンターしまむらでは、従来卸売企業が各社個別に行っている中国からの輸入を、しまむらが中心となって仕立てたコンテナの案内を行っている。

コスト構造(Cost Structure)

費用と収益を計算してみて、簡易P/L(損益計算書)を作成してみます。人件費、広告宣伝費、製造費、開発費など。この際、収益(売上)に連動して発生する費用(変動費・原価)と、売上とは関係なく発生する費用(固定費・経費)に分けて考えると分かりやすいと思います。

左に売上と費用の一覧を書いてみました。ご参考まで。 IT関係の方は、変動費は従量課金型サーバ代、固定費は固定課金型サーバ代と考えると分かりやすいかもしれません。

売上はその根拠となる数字を入れてみると分かりやすい場合が多いです。

  • 例:売上=潜在顧客数×来店頻度×商品単価×買上点数

上記のような売上方程式について、詳しく知りたい方は下記の記事もご参考ください。

記事: 売上を増やす確実な方法: 売上方程式

資金繰り(Revenue Streams)

この欄は「Revenue Stream」ですが、あえて「資金繰り」と訳してみました。他に資金に関して検討する項目がないからです。資金は大きく分けて、初期費用に必要な資金と運転資金に分けられます。初期費用は初めて売上が上がるまでの費用、運転資金はランニングで必要なお金と考えます。

運転資金は手持ち現預金、売掛金、在庫などの資産、買掛金などの負債に分けて考えると分かりやすいかもしれません。下の図もご参考ください。資産から負債を引いた額を何らかの形で資金調達する必要があります。入金期間を短くし、支払期間を長くすることを検討します。

例:
  • ヤフオクやメルカリは、個人間売買に絡むお金のやり取りを成るべく自社を通して行うように誘導している。入金が早く、出品者に対する支払いが遅いので、事業が大きくなればなるほど、お金がたまる仕組みになっている。

ビジネスモデルキャンバス(BMC)の事例: メルカリ/Mercari

実際に書いてみようというわけで、最近はやりのメルカリについてビジネスモデルキャンバス(BMC)を作成してみました。

BMCを眺めながら考えてみると、まず、手軽な個人売買を若者、女性向けに最適化して打ち出してきたところが注目されます。当時、ヤフオクは最大の個人売買サイトでした(今も?)が、業者が多く、UIも必ずしも使いやすいものではなかったような気がします。スマートフォンの急激な普及に追いついていませんでした。最大手であることに胡坐をかいていたのか、それともそれほど Yahoo Japanにとって旨味のないビジネスなのかもしれません。2018年末現在でも、ヤフオクの改善速度は早いとはとても思えません。

一方で、ヤフオクを用いた詐欺については、頻繁に報道されたこともあって、個人認証をしっかりと行っていました。逆にメルカリはこの部分をうまく飛ばしました。然るべき認証手順を省くことで「手軽に」を実現していました。

スマートフォン対応でうまくビジネスを拡大した例として LINE もあります。当時、Yahoo Messenger や Skype があったにも関わらず、LINEはユーザ数を大きく伸ばす結果になりました。

仕入れ先、協力会社の面では、物流とうまく契約したといえるでしょう。出品者側にとって発想は大きな手間で、お金もかかります。協力会社と組んで物流の仕組みを作ったことは手軽さに大きく貢献しています。

資金繰りの面では、落札額の全額をいったん自社の口座に振り込ませているところが非常に巧妙です。逆に出品者への支払いは後になりますので、利益以上にお金が集まってくる仕組みです。メルカリの場合には更に出品者が申請しないと振り込まないという興味深い決まりを作っています。出品者が申請しないお金も集めれば相当額に上るでしょう。


如何だったでしょうか? 皆さんのお役に立てば幸いです。ご質問がありましたらご一報下さい。


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