財務の話が長く続いたので、本日は在庫について記載してみます。
まず、小売業以外では、何故「在庫は悪」「在庫を見たら親の仇と思え」と言われるのでしょうか。 在庫はそれ自体で付加価値を産まないからですね。 これに答えられる人はなかなかいないので、知っていて損はないかと思います。 どういうことかというと、資金を投入して利益を得ることを財務面から見た企業の姿と捉えると、 在庫の分を減らして、より多くの資金を製造・販売に回せばもっと儲かるということですよね。
下記の図の例では、原材料費が1000円で、3工程で200円づつ、 合計で1600円の原価が掛かっており、2000円で販売します。 当然、利益は 2000円 - 1600円で 400円となり、 利益率は 20%となります。 原材料在庫 1000円、製品在庫 1600円、持っており、 この値は1回分の費用と同額を考えます。 元手は在庫と元手の合計で4200円となります。 総資本回転率は売上÷総資本ですので、2000÷4200≒0.48 となります。
今、原材料在庫と製品在庫を廃止し、材料と製造に使ったとします。 計 2600円が浮きますので、材料を1625円、それぞれの工程で325円ずつ、 多く使えます。 今度は原価が 4200円分の商品ができますので、 売上は4200円÷80%=5250円となり、利益は1050円となります。 総資本回転率は 5250円÷4200円=1.25となります。
ちょっと数字が並んで分かりにくかったかもしれませんが、 直感的には遊んでいるお金を有効活用すれば、 その分儲かるという当たり前の理屈になります。 同じ利益率でも売上に繋がるところにより多く使えば、 売上が上がり、利益額も上がります。
上の単純な例では元手と言っていましたが、 実際の企業では資本と言いますよね。 資本は主に金融機関からの借入金、株主からの資本金、 会社の利益の累積である利益剰余金からなっています。 元手にはコストが発生していると考えられます。 金融機からの借入金に対する支払利息は一番分かり易いですね。 資本調達コストは一般的には以下の式で表されますが、 中小企業の場合には単純に借入金の利子率で良いかもしれません。
資本コスト=有利子負債残高×負債利率×(1-実効税率)+自己資本残高×自己資本要求利回り
お金を借りて事業を経営しているとすると、 在庫に掛かっているお金にも利子が掛かっています。 売上に繋がらないところにお金を使っていては利子分損をするという理屈です。 利子を払ってまで借りたお金ですので、儲かることに使わなければいけないということです。
在庫には他にも問題があります。 まず、売れ残り、使い残りの危険性があります。 最終的にはお金を払って処分する以外なくなります。 作ったけど売れない、仕入れたけど売れないということが発生する可能性があります。 又、そうならずとも時間経過で破損、汚損があり、 売り物・使い物にならなくなってしまうこともあります。
製造業では、「在庫は工程の諸悪を隠す」と言われます。 品質のブレ、製造時間のブレといった現場の問題を隠します。 「予備(在庫)があるから大丈夫」となりがちですが、 実際には工程そのものの問題です。
逆に在庫が必要な場合もあります。 例えば、納期より製造時間が長い場合です。 納期の1日前に発注が来るのに製造に3日かかる製品があれば、 在庫を持たずに納期通りに納品はできません。 実際にこう言った場合には、納品先との交渉が必要になります。
或いは小売業の店頭在庫は、消費者に商品を見てもらう必要があるので、 通販ではなく実店舗の場合には難しくなります。
大量に作った方が圧倒的に安い製品の場合も ある程度の在庫を持った方が得をする場合があります。 日用品等はこの例が多いですね。