成熟市場での戦略


バブル景気崩壊以降は失われた10年・20年と言われ、経済成長が鈍化している時代と考えることができます。ここでは市場が大きく成長しない「」でどのような戦略が可能か、おさらいをしてみます。

環境の変化

事業環境は、市場成長期には市場の成長に合わせて競争上の優位を如何に確立し、競合企業・ライバルに差をつけ、市場シェアを伸ばすことが戦略上の課題でした。一方、市場安定期においては、一旦、製品・サービスは市場に行き渡っており、競争優位を確立しても市場占有率を伸ばすことが難しくなってきます。顧客にファンになって貰い、顧客に対して価値を提供していく中で安定した収益を上げて行く必要があります。

例えば、自動車業界で考えてみると、人々に充分車が行きわたっていない時代には、他社より速く燃費が良く、価格も安く、耐久性の高い車を作ることで、市場で競争優位を確立することが戦略上の要点でした。一方、現在では、技術と情報技術の進歩からメーカ各社で性能には大きな差を付けるのが難しいと考えられます。市場に製品が充分に行き渡っている為、単純に性能の良い自動車を作ったとしても、新規に買ってもらうまでには中々至らないのではないでしょうか。又、他社との性能・機能における差別化が困難な為、競合他社から顧客を奪うのも簡単ではないでしょう。逆に単純にメーカという枠組みを超えてファンを作り、ファンになりやすい仕組みを作っていくことが重要と考えられます。

以前は業務プロセスの効率化による低価格化が一つの要点でした。市場成長期には他社より少しでも安く量を売るという戦略が成り立ちましたが、市場成熟期に於いては新規顧客が少ない為、安くしたとしても量はそれほど売れず、結果として効率化・低価格戦略は業界1位、2位の企業以外に難しい戦略となります。体力がない企業が安売り競争に巻き込まれれば、消耗するのみとなってしまいがちです。









市場成長期 市場安定期
事業環境 安定的成長
競争偏重
速く、読めない変化
競争・協働・相互作用
ビジネス志向 経験・手続き志向 現在・顧客志向
優位性確立 効率、標準化による低原価 創造性、顧客期待対応
戦略 競争優位の確立 独自モデル、価値の思い切った飛躍
業界 提供する製品・サービスが基準 顧客の問題解決が基準
戦略モデル 競争優位の地位を争うベンチマーキングとベストプラックティス 独自の地位を形成する戦略、ブランドの確立

顧客戦略

前述の通り、成熟化市場では性能・機能・低価格という要素より、顧客との関係深化が要点となりやすい状態となります。これを図で表したものが、逆ピラミッドです。従来は、経営トップから指令が出て、管理職に渡り、従業員に徹底される過程が重視されてきました。成熟市場では、顧客が情報を持っており、顧客との接点を持っている従業員がそれを受け取り、最後には経営者に渡る流れが重要と考えられます。

この図には、計画を作って計画通りの実行が業績に繋がる組織と顧客との関係の中から商品・サービスの改善、新商品・新サービス開発を行っていく組織との違いを示しているとも考えることができます。市場成長期には顧客の要望をある程度推測し綿密な計画を策定しその通りに実行して行く事で企業成長が図れました。近年は市場が飽和状態にあり、顧客の動向が掴みにくく、何が当たるか分からない状態です。この様な時代では、顧客の要望を如何に吸い上げるかが重要になります。

産業としても、高度成長時代には2次産業(製造業)が中心でした。このような産業では上からの指揮・命令が重要とされています。一方、低成長時代にはサービス業が中心となり、商品・サービスは勿論、実際に顧客に接する第一線の従業員がどう顧客に対応するかが分岐点になります。例えば、飲食業であれば、料理の味は勿論ですが、ウェイター・ウェイトレスが顧客に対してどのような態度で接するかも重要であることが想像しやすいかと思います。成熟市場では、技術の進歩により商品・サービスでの差別化が図りにくく、顧客は寧ろ接客の方に価値を見出しやすいと考えることができます。

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位置付け論(ポジショニング) vs 内部資源論(Resouce Based Theory)

経済成長時代の戦略は主にポジショニング(自社の位置付け)に重点が置かれていました。この考え方(アプローチ)は競合他社に目を向け、それらに対する差別化を意図したものです。PPM、ビジネススクリーン、5Fs Model、マイケル・E・ポーターの基本戦略、競争地位戦略等、代表的なものでも多くの戦略論があります。

経済成長時代には新規顧客の獲得が比較的容易でしたので、他社との差別化を行い、競争優位を確立することに重点が置かれていました。必要な経営資源は外部から調達可能と考えられていたのです。しかし、外部からの調達といっても、うまくいかないM&Aもあります。又、究極的に考えると、自社が入手できる経営資源は競合他社にも同様の対価で入手できると考えられ、この点での差別化はあり得ません。例えば、人材獲得を考えてみます。ある優秀な人材を採用し雇用するコストと同様のコストで競合他社も同じくらい優秀な人を雇用できます。このことは単に経営資源を獲得しただけでは競争上の優位にならないことを示唆しています。

ポジショニングは競合の動向を分析し、自社がどこに重点を置いていくかを分析する手法ですので、最初に方向性を決める時には有効であると考えられます。しかし、実際に事業を行っていく中では、不確実性がありますので、戦略だけでは必ずしも機能しません。この不確実性を作り出しているのは成熟市場における顧客です。中小企業経営者の皆さんの感覚でも、ライバルが何をしているかは良く知っているが、実際に今のお客さんに対してどんな商品がヒットするのかは分からないというのが実感ではないでしょうか。昨今の情勢では、顧客のニーズは満たされており、必ずしも必要性のない商品について、価値を感じてもらったり、面白いと思ってもらったりすることの重要性が高まっています。

実際、同じポジショニング戦略を取っていても、長期的な視点で見れば、結果に違いが生じてきます。この違いは何かというのが内部資源論の課題意識と考えることができます。一つには事業を行っていく上でのプロセス(やり方)、もう一つは企業文化を内部資源論では重要視しています。顧客との接点である現場から同情報が上がってくるか、現場で如何に改善を行っていくか、その為の社内の仕組み、手順、プロセスはどうあるべきか、これが一つの要点になります。更にこのプロセス、やり方、行動を実践してゆく中で、企業文化が生まれてきます。企業文化は従業員が共有している行動のパターンと考えることができます。

究極的に考えれば、会社の方向性が正しく、現場のPDCAがうまく回れば、事業はうまく行くと考えられます。ポジショニングがあり、現場から情報が上がってきて、改善のサイクルが回ってくれば、適切に経営を進めて行く事ができそうです。勿論、運もあるでしょう。

まとめると、方向性と現場のPDCAの仕組みを作ることが、経営の役割と考えられ、これに運が味方してくれれば、事業は成功します。現場のPDCAが社員全体の考え方である企業文化にまで昇華すれば、他社に模倣できない強みとすることができます。

ある市場で、同程度の資本力を持った2社間で競争上の優劣があることは看過できません。この優劣は、ノウハウの蓄積や企業文化に依ると考えられ、これらの競争優位は他社には容易に真似できないものであると考えられます。この競争優位をコアコンピタンスと呼びます。情報的経営資源論では、企業の資源に物的経営資源以外に、情報的経営資源があるとします。7Sモデルでは、価値観、分化、人、技能に着目し、
ハード面の優位性との均衡を訴えます。又、ナレッジマネジメントモデルでは知識の共有を分析します。


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