内部留保金課税


法人税減税に関連し、俄かに内部留保金課税に注目が集まりだした。 一部ではこの金額の1%でも使えば・・・という話もあるようだ。 そんな良い話ならと思うが、本当のところが良く分からず、調べてみた。

■ 内部留保とは?
内部留保とは企業の利益の内、株主配当、役員賞与等の社外流出を除いたものである。 この蓄積が貸借対照表上で主に利益剰余金という科目で記載されている。

財務会計では、大雑把に売上から原価、経費、税金を引いたものを利益と考える。 この利益の積み重ねが内部留保となる。 だとすれば、当然、税金を既に払い終わっている金額に 再び税金が掛かることになり、二重課税となる。 経営者から見れば単に法人税が重くなったように感じるであろう。 これでは法人税減税の影響を縮小させる効果しかない。

企業の内部留保が多いと言われているが実際はどうだろうか。 又、運用状況はどうなっているだろうか。

■ 内部留保の金額と使途
財務省の発表している統計の一つに「法人企業統計年報」がある。 この統計には金融・保険業を除く資本金又は出資額1千万円以上の営利法人の 貸借対照表(B/S)の内容を見ることができる。

貸借対照表(B/S)は、 企業がどこから資金を調達し、現在、どんな形で残っているのかを確認することができる。 即ち、貸借対照表(B/S)の左側は資産の運用状況を示し、 右側は資金の調達状況を示している。 利益として計上された金額も全てが現金として残っている訳ではない。 これも合わせて確認する必要がある。

この統計表から平成16年と平成25年の差分を計算してみたところ、 資産で242兆円増加していることが分かった。 この内、各科目が増加分の何%を占めているかを下記のグラフに纏めた。 例えば、「他 固定資産 12%」とあれば、249兆円×12%≒30兆円増加したという意味である。

capital_increase

計算結果を見てみると、 企業全体では資産増加分の80%を内部留保を含む純資産から捻出している。 借入金による資金調達は短期・長期を合わせると6%に過ぎない。 運用状況としては、現預金は増加分15%を占めているが、 それ以上に投資有価証券として50%が運用されていることが分かる。

ちなみにグラフ中の「他 有形固定資産」は土地以外の有形固定資産を指す。 この数値が減少しているのは、 企業が設備投資を行う以上に減価償却費の計上と設備処分が行われていることを意味する。

■ 内部留保課税の効果
仮説ではあるが、企業は日本経済の低成長率から積極的に投資を行っておらず、 又、自然災害や金融危機に備え換金性の高い資産を増加させたと考えられる。 資金調達の面では、純資産の増加が殆どであり、 金融機関から借り入れを行って事業拡大を図ることは比較的少ないようである。

この状態で、内部留保に対して課税を行えば、 株主に対する配当は増えるであろう。 又、内部留保課税分の税収は増える。

一方で企業が積極的に設備投資を行っていない状況は変化せず、 結局はリスクを背負って設備投資するのではなく、 安全性の高い金融資産になってしまう可能性は高い。 内部留保課税は、資産の増加分を減少させる上に、結局は増加分の半分が 金融資産になってしまう内訳を変えることにはならない。

政策として設備投資を促していくのであれば、 寧ろ設備投資減税の方が効果が高いのではないか。 現在の投資減税には、先端設備や生産性向上の為の設備導入を行う際の 「生産性向上設備投資促進税制」や中小企業向けの「中小企業投資促進税制」があるが、 なかなか内容が分かりづらい。 これらの制度を整理し内容を拡大して普及を図れば、 設備投資に対して影響が出てくるのではないか。

■ 経済成長
もっと広い視点で経済全体を見れば、 企業が設備投資を行わない理由は消費が伸びないからである。 消費が伸びなければ、新しい設備を入れて生産性を改善し、より多くの財を生産したとしても、 売上は増加しない為、設備稼働率を下げざるを得ない。 最低賃金の上昇等、家計の可処分所得を上げながら、 消費者心理を改善する施策を打ち出していく必要があるだろう。

見てきたとおり、内部留保課税は二重課税である。 設備投資を増やすのであれば設備投資減税があり一定の効果があるだろう。 但し、企業が設備投資を行わないそもそもの理由が消費の伸び悩みにあるとするなら、 こちらの方の対策も合わせて行う必要がある。

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