行動規範とコンピテンシー


経営者から見て従業員に対し、「こうあってほしい」「こういう風に顧客に接してほしい」という気持ちを表したものを「」と呼ぶ。一方、ある企業のある職種で、優秀者の行動特性を抽出し活用する仕組みを「コンピテンシー」と呼ぶ。両者は、着想は全く違うものの、従業員の行動に目を向ける点では同一である。本稿ではこの両者について解説する。

行動規範も優秀者行動特性も、結果の評価ではなく、過程の評価である。両者の違いは期待される行動が経営理念から導かれるものであるか、優秀者の行動特性から導かれるものであるかの違いである。行動規範も優秀者行動特性も、成果の評価ではないので主観的にならざるを得ない。故に評価者を複数人とし、評価の主観性を薄める必要がある。評価者も上司に限らず、被評価者と一緒に働く人間を含む。

行動規範は「期待される」「求められる」「望ましい」人材等とも呼ばれ、経営理念から導かれる理想的な人物像に沿った行動を言う。下記の例は、ある企業の行動規範を示したものである。経営理念が最上位にあり、経営ビジョンが次にきて、下に行動規範が置かれている。

経営理念・経営ビジョン・行動規範


優秀者行動特性(コンピテンシー)制度は、行動を評価するという点では行動規範と同様であるが、望ましい行動は、優秀者の行動特性から導かれる。人間の価値観や動機の高さから、仕事に対する基本姿勢が表れ、技能と一体となって、行動に繋がり、成果がでるという考え方に基づいている。鍵となる基本姿勢は職種によっても違うことが想定される。この基本姿勢をコンピテンシーと呼ぶ。コンピテンシーそのものは不可視なので、結果として現れる行動から基本姿勢を評価することになる。

下記の図は、コンピテンシー制度の理論的背景を図示したものである。

chart-competency


基本姿勢や行動を評価する際には上司一人による評価ではなく、複数人による評価が望ましい場合がある。この場合には 360度評価という概念がある。対象者の仕事ぶりよく知る「上司」、「同僚」、「部下・後輩」、そして「部外の関係者」が、評価シートに記されたいくつかの行動項目について回答する仕組み。行動の「良し」「悪し」を判断して回答するのではなく、その行動をとっているか、とっていないかといった行動の発揮状況を観察して回答する。解答結果を対象者単位に集計すると、行動特徴が明らかになり、結果を対象者に伝えることで、意識改革や育成につなげることができる。

図:360度評価


行動規範やコンピテンシーの枠組みは、客観的に行動を評価していくことができる。客観的に評価できることで、改善に繋がりやすい。言い換えれば、評価される当人からしても、上司1人の意見ではなく、全体の意見として評価されるため、納得感があり、受け入れやすい。成績重視の評価で職場雰囲気の悪化や協働意欲の低下が見られる場合、これらの制度を検討する価値がある。

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