世間では経営者という人達がおり、学者という人達もいる。そして、経営コンサルタントというものも存在している。経営者は実際に経営を行っており、経営の経験に優れる。一方で学者は学問として経営を研究しており、知識に優れる。コンサルタントは知識と経験の間を行ったり来たりしながら、豊富な知識で経営者を支援する立場だ。知識は道具であって目的ではない。経営は実践であり、知識は肥やしである。知識だけでは経営はできない。この点をまず肝に銘じる必要がある。
カレン・フェランという人の著書に「申し訳ない、御社を潰したのは私です」という本がある。この本は「コンサルタントはこうやって組織を滅茶苦茶にする」という副題が付けられている。この本の中で、著者は、目標管理制度(MBO)やコトラーの競争戦略は無益であったことのお詫びを述べている。考えてみればMBOは元々経営目標に対し構成員各自の役割を定義することにより、経営目標達成に向けた組織の動きを統一し最大化する目的のものであった。それが構成員の評価制度に使われることになり、無益なものと成り下がった。
又、コンサルタントとしては、真の問題を発見することが最重要の仕事である。問題のある組織は、課題を幾つも抱えている。多数の課題に個別に対応していたのでは、時間がかかり、環境の変化に対応できない。個々の課題から仮説を立て、問題の根源を転換することが、対象企業にとって最大の利益となり、コンサルタントにとっては最大の貢献となる。
一方、コンサルタントとして関わらない方が良い案件もある。経験則から「経営者の代わりとして従業員の前に立つこと」「資金繰り」「同族の確執問題」には関わるべきではない。
経営コンサルタントの仕事は、会社の町医者に例えられる。町医者が患者の病院を特定し、治療方針を立案し、治療や投薬を行うように、コンサルタントは経営分析を行い、経営改善策を立案し、経営支援を行う。
一般に経営分析は以下の過程を得る。
経営実態の把握 | |||
事業実態把握 | 問題抽出 | 課題抽出 | |
財務実態把握 | 問題抽出 | 課題抽出 | |
組織実態把握 | 問題抽出 | 課題抽出 | |
環境分析 | 問題抽出 | 課題抽出 | |
成り行き分析 | 問題抽出 | 課題抽出 |
環境分析にはミクロ環境分析とマクロ環境分析がある。中小企業が対象の場合、ミクロ環境分析では業界の把握を行う。マクロ環境分析では、強みが弱みに変わること、或いは技術の陳腐化、市場の縮小に焦点を当てる。
成り行き分析とは、改善策を講じた場合と講じなかった場合の将来的な予測である。グラフなどで目に見える形で提示する。
改善案の立案に際しては、経営構造と経営理念に注目する。経営理念とは経営者の思想であり、理想である。一方で現実を見据え、経営構造の分析を行う。経営構造の分析は以下の構成で行う。
経営構造 | 事業構造 | A事業の構成 | 製品市場 |
B事業の構成 | 製品市場 | ||
C事業の構成 | 製品市場 | ||
財務構造 | |||
組織構造 |
財務構造と組織構造を合わせて、経営機能と呼ぶ。事業構造、財務構造、組織構造の3つの組み合わせを変革することが即ち経営戦略である。
経営実態の把握と経営構造の分析、及び改善案の立案を特に経営診断と呼ぶ。部門別行動計画の策定とその実行を経営指導と呼ぶ。
コンサルタントを町医者と考えると、その守秘義務は極めて重い。
コンサルタントは第三者からの客観的視点を求められている。経営者に対して白を白、黒を黒ということが、対象企業の利益につながる。職務に対して矜持を持ち、譲れない信念を持つ。妥協は即ちコンサルタントとしての堕落である。勿論、損得と正義のバランス、言い換えれば顧問料と自説への拘りのバランスをとることは言うまでもない。
いくら信念を持っていたとしても、自らがそれを実行できないようでは、他者を動かし、組織を動かして行く事は困難だ。コンサルタントはまずもって遅刻厳禁である。
コンサルタントは客先では先生と呼ばれる。これに慢心することがない謙虚さを持つことがコンサルタントとしての資質の一つである。知らないことは恥ではなく、後で調べてお伝えすればよい事だ。