MBO(Management By Objectives, 目標による管理)


MBO(Management By Objectives and Self-Control)は、経営哲学者であるピーター.F.ドラッカーが提唱した概念である。日本では「目標管理」と訳され、成果主義人事制度の理論的背景となったが、そもそもの概念はノルマ主義とは全く反対に自発的に社員を動かすにはという問題意識から出発している。本稿ではMBOの概念を改めて整理すると共に、企業経営に有益なMBOの在り方を検討する。

成果主義人事制度

一昔前であれば、「我が社にも目標管理が導入され、目標への達成度で人事評価がされるようになった」という話をよく聞いた。所謂「成果主義人事制度」の導入の事である。皆さんの周辺でも環境が厳しい分、部の目標も高めに設定され、なかなか目標を達成できないという状況があったかもしれない。成果主義人事制度は、主に企業の総額人件費抑制の為に個人業績連動型給与導入を行ったものであった。結果は皆さんもご存じの通り、成果主義人事制度は失敗する場合もあり、最近では余り聞かれなくなった。

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余談ではあるが、成果主義人事制度の過度に結果を重視する姿勢の反動として、その後、人事の世界ではコンピテンシー制度が積極的に謳われた。コンピテンシー制度は、優秀者行動特性制度とも言われ、結果の評価ではなく、行動の評価に力点を置く。この評価される行動が成績優秀者から抽出された行動典型というわけである。

成果主義人事制度は、会社の目標を部署のノルマに落とし込み、部署のノルマを従業員単位に割り振る。そして、そのノルマへの達成度で給与が決定するという仕組みである。

MBOに対するドラッカーの意図

MBOを提唱したドラッカーの意図は何であったのだろうか。MBOは日本では「目標管理」と訳されたが、実際には「目標による管理/経営と自己統制」と直訳できる。即ち、個々の社員に自分で目標を設定させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する考え方である。本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づいている。ノルマ管理とは正反対の考え方であることが分かる。ノルマ管理は結果の評価であり、MBOは方法論を言っている。

ドラッカーのMBOの課題

ドラッカーは経営哲学者と呼ばれており、MBOの具体的な実装について述べている訳ではない。そこで、制度として実現する際には解釈の入り込む余地が大きい。結果として自主的な目標を使って経営を行っていく方が仕事に対する従業員の意欲向上に寄与するという話が、上からのノルマを個々の従業員にまで細分化し、ノルマへの達成度で給与が決まるという制度にすり替わった。もう一点、日頃、経営に取り組んでいる方はお分かりになるであろうが、目標による管理には組織が従業員の立てる目標にどのように関与するかという視点がない。即ち、個々の従業員の自主性を重んじるのは良いが、それが組織目標として統合される為に何が必要なのかという言及がない。

下記にMBOを制度として実現した場合の研究を記述した文献を参考として挙げる。

〔GE研究の結果〕
  1. 批判(criticism)は、目標達成にネガティブな影響を持つ。

  2. 一方的な称賛にはあまり効果がない。

  3. 個人の仕事の成績は、ある目標が達成された時、最も向上する。

  4. 批判的な評価から起こる個人の自己防衛は、業績をお粗末なものにしてしまう。

  5. コーチングは、日々行なうべきもので、年に1回だけのことではない。

  6. 上司と部下が一緒になって目標設定すると、業績が向上する。

  7. 業績を向上させるために面談は、昇給や昇進とは別々に行うべきだ。

  8. 目標設定の手続きに従業員を参加させると、好ましい結果をもたらす。

参考文献:http://www.jexs.co.jp/column001.html

上記の知見から得られるMBOの在り方は以下の通りとなる。

  • 上司は部下を支援する立場である

    • 部下の目標設定については、上司が部下に組織の現状を伝え、それを勘案した上で部下に自主的な目標設定を指導する。

    • 目標設定は上司と部下が一体となって行う。部下の目標達成は、部下の責任であると共に上司の責任でもある。

    • 上司は部下が目標達成できるように日々、支援を行う。

  • 個人業績は客観的な指標を使う

    • 上司の部下への評価は「批判」にならないように、極力避ける。飽く迄、客観的指標を目標に設定し、評価ではなく「どうすれば目標達成できるか」を一緒に考える。

    • 上司の主観的な評価は、上司が人間である以上、常にブレが生じる可能性がある。これは部下の上司に対する不満に直結する。又、部下の眼は上司の歓心を得ることに向きがちになる。

  • 昇給や昇進とは切り離す

最近、流行りのものに体重減量目的の個室ジム(Rizap)がある。体重を減らしたい人が自主的に目標を決め、トレイナがそれを指導・支援する仕組みだ。自分で決めた目標だから自分に責任がある。又、結果は客観的な指標であり、主観的な評価は含まない。勿論、組織としてはトレイナにも顧客の目標達成に対する責任があると考えているであろう。このような関係を上司と部下、会社と従業員に作ることによって、自主的に目標達成に動く仕組みができる。加えて、組織の場合には組織の現状を適切に伝え、部下の目標設定を誘導する必要があるだろう。

経営者以外の社員は何事も現状の延長線上で考えてしまいがちである。その為、計画策定の際に経営者の感覚と社員が提出してきた目標とに大きな乖離ができることもあるであろう。特に新規事業等、新しいことを始める際には経営者のリーダーシップが必要とされる。勿論、経営者には指揮監督権があり、社員の考えを超えた目標を立てることもでき、結果的に成功すれば、組織の活性化に大きく寄与するであろう。失敗した時には、経営者自身が結果から逃げず、現実との差を埋める適切な対策を取れば良いだけである。

MBOの実際・導入方法

上記の論点をまとめ、具体的な経営の流れを考えてみると以下のようになる。

  1. 経営の現状と経営計画の概算を社員に伝え、社員から計画を提出してもらう。

  2. 社員各自からの数字を集計し、経営計画に足りないようであれば、現状の延長線上では計画達成が難しいと考えられ、何らかの施策を行う必要がある。

  3. 社員各自ができると思う数字と経営者ができると思う数字の間が経営計画の数字となる。勿論、経営者がリーダーシップを発揮し、できると思う数字を計画に設定することも可能である。

  4. 経営計画を社内に発表する。

  5. 計画の進捗、目標の達成度はなるべく客観的な指標とし、日々確認を行う。

  6. 目標未達の場合には上司と部下で対策を練る。

当コンサルティング事務所ではこれを具体化する為のプログラムを開発した。この内容に沿って社内に仕組みを導入し、既に結果が出ている企業もある。皆さんの日々の経営の参考になれば、幸いである。


業績を上げる経営計画と経営会議
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